2005年04月15日

T-Time 5.5 という名のページをめくる冒険

先日、遅ればせながら T-Time 5.5 の「書き出し機能」を試した。書き出し先は、CASIOの EXILIM EX-Z55。とりあえずPC上に書き出すのかと思っていたら、「それらしいデバイスがつながってないですよ?」とアラートが出る。あらためてエクシリムをマウントしてから書き出すと、デジカメのメモリに直接データが書き込まれた。

エクシリムは大きな液晶を持ったデジカメの先駆で、小型デジカメの中ではバッテリの持ちがずば抜けて良いのが特徴。実際に、片手でページをめくっていくと、デジカメだったはずのそれが、まるで最初からそうであったかのように電子書籍のビークルとして機能する姿には、ちょっとした感動さえ覚えた。

実際に体験してみると、それまで見えていなかったことがパァッと頭の中にひろがってきた。なるほど、これは iPod と iTunes の関係(ビジネスモデル)の電子書籍バージョンなのだ。

iPod が爆発的に普及したその背景に、iTunes というすぐれた音楽データ管理ソフトの存在があることは、iPod & iTunes ユーザーなら誰もが理解していることと思う。iTunes がデスクトップ上でデータを管理し、iPod はそれを持ち出して利用するビークルになっている。電子書籍をビークルに載せるときに、ビークルそのものが電子データの入出力機能を備えていないかぎりは、メモリカードなり本体なりをPCに接続して、データを書き込む必要がある(※)。

※)携帯電話は例外的にデータの入出力…すなわちネットワークへの接続能力を持っている。また、PC上で管理するのではなく、キヲスク型のデータ書き込み端末を利用するといったビジネスモデルも過去に存在した。

PCで電子書籍データを管理する…ここがややこしい。PCの上では、すべてのデータファイルが一律に扱われる。スマートに電子書籍だけを扱うことができず、ひとつの壁になっている。ファイルを管理するのは、面倒なのである。自分の本棚を育てていくような楽しみがあるわけでもなく、無味乾燥なファイル名を与えられたデータをフォルダに保存していくような作業。メモリカードに書き込む操作も、その延長でしかないのだから、このプロセスが電子書籍にとって大きな足枷になっているのは間違いない。抵抗感がないのは、PCの操作を習熟した、ごく限られた人だけである(そうなんですよ、みなさん)。

T-Time は昨年リリースされたバージョン5から、「書棚」というウィンドウが用意され、ここでPC内にあるデータを一覧表示させることができるようになった。その当時にはエキスパンドブックですでに実現していた機能がようやく実装されたか、という印象しかなかったのだが、T-Time がPC内のブックをリストアップしてくれる、この恩恵は思いのほか大きい。

今は、ただリストアップするだけにすぎないが、iTunes とまではいかないまでも、書棚の上でタイトルを自由に並べ替えたり整理できるスマートな機能を、ボイジャーは開発するべきだと思う。

書棚からブックを呼び出し、サッと書き出して、ビークルで読む。この連携は、スマートで美しい。

T-Time は、PC用からスタートして、PocketPC 版やΣブック版が開発されてきた。また、Palm には Pook というソフトをパートナーにして普及をはかってきた。この活動の中で常にネックになってきたのは、「そのとき市場を見込まれるビークル」に対して、専用の T-Time やそれに類する環境を用意しなければならなかったということだ。その都度、アプリケーションの開発が必要になる。これは苦しい。かつて、どんなOSでも実行できるアプリケーション環境として期待されていた Java なんていうものもあるが、けっきょくのところ実行環境の違いによって互換性の問題はぬぐいされず、ユニバーサルなソフトウェア環境などというものはいまだに夢物語でしかない。

T-Time が担っている機能はハードルが高い。単にドットブックの内容を表示できる、というだけでは意味がなく、そのビークルでもっとも美しい表示(組版)が求められる。コレは生半可なことではない。実際、どれだけ美しい組版技術を実装しても、それに見合ったフォントがなかったために、T-Time 5 ではついに秀英明朝フォントまで実装してしまった。PC版の T-Time の表示能力、その柔軟性は、まさに極まっているのである。

そのビークルに組版機能を組み込むのが難しいなら、PCで美しく組んだ版面を用意してしまえばいい、ここにコロンブスの卵が屹立した。

ページイメージを画像データに書き出す技術は、エキスパンドブックの時代から実装されていて、T-Time にも印刷機能としてそれは組み込まれていたのである。ボイジャーがやったのは、これをあらゆるビークルに最適化して書き出せるよう調整すること、ただそれだけだったと言ってもいい。このカード(切り札)は、10年も前からボイジャーは隠し持っていた、いや、みんなの前に提示さえしていた。時代がようやく追いついてきた、そういうことなのである。ページをめくる冒険が、ふたたび始まろうとしている。

なお、本日4月15日から正式版が公開開始の予定だったが、12時の時点ではまだ公開されていないようだ。

追記:その後、15日中に無事公開にこぎつけた模様。ボイジャーのみなさん、おつかれさま。そしてありがとう。
posted by 多村栄輝 at 14:10| Comment(0) | TrackBack(1) | Note | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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